そろばんを習っているのに計算力がそれほど上がらない

 

後から入塾した子にどんどん追い抜かれて面白くない

 

上級の一歩手前までは進級できたのに、一定の級で足踏みしてなかなか上に上がれない

 

正直言ってもうやめたい

 

こんな状況になってしまっている人、

あるいは

 

子供の頃こんな状況になってしまった人

 

いると思います。

 

そろばんを習ったら、圧倒的な計算力が身につくはずなのに、なぜこんなことになってしまうのでしょうか。

 

そして、このような状況に陥らないためには、どんなことに気をつければよいのでしょうか。

 

私の教室では、これを

 

筆算トラップ

 

と呼んでいます。

 

学校とそろばん教室では、計算方法が全く違う

 

学校で習う計算方法とそろばんの計算方法は全く違います。

 

話を分かりやすくするために、

学校で習う計算の考え方=筆算式

そろばん教室で指導する計算の考え方=珠算式

とここでは呼ぶことにいたします。

 

 

「筆算式」「珠算式」では、計算のやり方が全く違います。

 

繰り上がりのたし算を例にとって説明します。

 

例題:9+6=15

 

「筆算式」のやり方

① 足す数の6を「1と5」に分けます。

② 足される数の「9」と「1」を合わせて「10」にします。

③ ①で分けた「5」と「10」を合わせて「15」になります。

 

「珠算式」のやり方

① 足される数の「9」から「4」を引きます。

② 「4」と「6」を合わせて「10」にします。

③ 「9」から「4」を引いた残りの「5」と「10」を合わせて「15」になります。

 

 

 

専門的な言葉を使うと、「筆算式」のやり方を「加数分解」

 

「珠算式」のやり方を「被加数分解」と言います。

 

 

この違いによって何が生まれるのでしょうか。

珠算式で圧倒的な計算スピードが生まれるわけ

 

「珠算式」では、「+6」をするときに、まず足される数の「9」から「4」を引きました。

 

このとき、仮に足される数が「9」でなくて、「8」でも「7」でも「6」でも「5」でも「4」でも、足される数から引くのは「4」です。

 

「+6」のときの「10になる組み合わせ」が「4」であるからです。

 

この考え方が、「珠算式」独特の圧倒的なスピードを生み出すことになります。

 

「筆算式」でも「10になる組み合わせ」を考えているんだから、それほど違いはないじゃないか。

 

そう思われる方もいるでしょうが、

 

足す方の数を分解する場合、分解した両方の数を覚えなくてはならないので、スピードは生まれません。

 

 

「珠算式」では、足される数を分解しても、分解した残りは覚える必要がないのです。

 

なぜなら、「9」から「4」を引いた残りの数は、そろばんの盤面に残っているため覚えておく必要がないからです。

 

この行程に慣れてくると、「9」から「4」を引いた数が、「そろばんの形」としてイメージできるようになります。

 

 

そろばんの上級者は、「9+6」の計算をするとき、ほとんど考えるということをしません。

 

 

頭の中のそろばんの珠が勝手に動いてしまいます。

 

「9」から「4」を引き、その「4」と「6」を合わせて「10」にする形が、勝手に脳内で完了してしまうのです。

 

この動作をそろばん教室では、「4を払って10を加える」と表現しています。

 

このことは、足される数の相手が「8」「7」「6」「5」「4」であっても同様で、

 

結局脳内で処理しているのは、「足される数から4を払う」ことだけです。

 

 

 

一方「筆算式」では、足される数が「8」「7」「6」「5」「4」と変化した場合、足す数の「6」の分解の仕方が変わります。

 

 

「2と4」「3と3」「4と2」「5と1」「6と0」のように思考が枝分かれします。

 

 

これでは圧倒的なスピードは出ません。

 

 

「珠算式」の計算方法で考える数の組み合わせは「合わせて10になる組み合わせ」と「合わせて5になる組み合わせ」だけです。

 

 

この組み合わせを合計しても、たったの7通りしかありません。

 

 

この7通りの組み合わせだけで計算を処理することで、圧倒的なスピードと正確性で計算を行うことが可能になるのです。

 

細かいことが分からないという方も、

「筆算式」と珠算式」の計算方法が、全く違うということはお分かりいただけたと思います。

 

 

進級をはばむ「筆算トラップ」

 

 

ここで、冒頭で触れた問題が出てきます。

 

そろばんを習っているのに計算力がそれほど上がらない

 

後から入塾した子にどんどん追い抜かれて面白くない

 

ある程度までは進級できたのに、一定の級で足踏みしてなかなか上に上がれない

 

この状況は、私が「筆算トラップ」と呼んでいるワナにおちいっている可能性が考えられます。

 

上で見たように、「筆算式」「珠算式」の計算方法は全く違います。

 

にもかかわらず、習っている生徒の中には、「筆算式」の計算方法を用いてそろばんの問題を解こうとする人がいます。

 

小学2、3年生で習い始めた生徒に多いので、指導者としても注意を払っています。

 

「筆算式」でそろばんの計算をやり続けると、ある程度の級までは、すいすい進むのですが、必ずどこかの級で分厚い壁にぶち当たります。

 

それも上級ではありません。

 

珠算検定なら、10級から6級のどこか。

 

暗算検定なら、7級から4級のどこかで壁がやってきます。

 

その壁にぶち当たると、乗り越えるためにはその生徒自身の頭の中の処理方法を「筆算式」から「珠算式」に変えるしかありません。

 

「珠算式」でも伸び悩むことはあります

 

頭の中が「珠算式」なのに、壁にぶち当たったのならば、やることは1つです。

 

ひたすら練習しましょう。

 

ちょっと話は長くなりますが、そろばん経験の全くない保護者の方々にイメージが伝わるように、具体的な練習風景例をお話したいと思います。

 

すでに知っている方は読み飛ばしていただいて結構です。

 

練習の例

生徒が見取暗算(たし算引き算の暗算)で伸び悩んでいる場合、先生がたくさん読上げ暗算(先生が問題を読んであげる)をしてあげます。

 

検定問題では子供が自分で数字を見て計算します。

 

読上げ暗算では、先生が問題を読んであげます。

 

「ねがいましては、2円なり、7円なり、引いては1円では」と先生が言ったら、

 

子供は答えを言ったり、書いたりします。

 

正解であれば先生が「はい、ご名算」という流れで練習します。

 

これは一例でしかありませんが、週1,2回通っている子がいたとします。

 

毎回通ってくるたびにマンツーマンでその生徒と個別に向き合って、根気よくこの読上げ暗算を繰り返してひたすら練習します。

 

どのタイミングでこの生徒が出来るようになるかはやって見なければ分かりません。

 

1週間で上達することもあれば1ヶ月ほど粘ることもあります。

 

そのうち上手になって、次の級に上がれるでしょう。

 

頭の中が「筆算式」のままでは伸び悩みの沼は深くなります

 

しかし、頭の中が「筆算式」のままだと、スピードと正確性で「珠算式」を絶対に越えることはできません。

 

いくら練習しても、遅いままだし、ミスも多くなるでしょう。

 

練習する以前に、頭の中を「珠算式」に変える必要があるのです。

 

 

生徒の頭の中が「筆算式」のまま級が進んでしまうことについて、

 

「それは珠算教室の先生の怠慢だろう」

 

というご意見もあるかと思われます。

 

 

たしかに、責任がまったくゼロであるとは言えません。

 

しかし、いろいろ理由はありますが、教室の先生だけを責めるのは正直申し上げて酷です。

 

その理由についてここで深掘りするのはやめておきますが、主に2つだけ挙げさせていただきます。

 

1 教室の運営方法による。

2 生徒の脳内は見ることができない。

 

1 教室の運営方法による。

たとえば、完全に先生が付きっきりで教えてくれる教室ならば、その教室の生徒は「筆算トラップ」にはかからないでしょう。

 

しかし、先生が付きっきりであるということは、授業料単価がそれだけ上がることを意味します。

 

そろばん教室で高額な授業料を設定しても誰も来てくれませんので、これは一般論としては夢物語です。

 

2 生徒の脳内は見ることができない。

生徒自身が、自分が「筆算式」でやっていることを自覚していて、

なおかつそのことをそろばんの先生にばれないように工夫している場合、先生からこれを見破ることは難しくなります。

 

特に、叱られることを極端に恐れている生徒はとにかく必死に隠したがります。

 

完璧主義の子も同様です

 

もちろん先生はこのことをよく分かっていますので、自分の教室の生徒が「筆算式」におちいらないよう、いろいろ工夫しています。

 

 

私自身の教室でも、そういう工夫は随所に組み込まれています。

 

例えば、私の教室ではプリントがなかなか進んでいない子も、一人で黙々とプリントを進めている子も、

 

全く同様に先生の前に一人一人呼んでプリントを解いてもらう時間を取っています。

 

手のかかる子も手のかからない子も同じように先生の前に呼んでそろばんを弾くところを見てあげることで

 

生徒のやる気も、ミスも、癖もまんべんなく見つけることができます。

 

 

それでも、幾重にも張り巡らされた網をかいくぐって「筆算式」で計算をやり続ける生徒はまれに存在します。

 

しかし、何度もご説明している通り、「筆算式」で計算する生徒は、それほど上級でもないどこかの時点で進級がぴたりと止まってしまいますので、結局かくし切ることはできません。

 

そして、「筆算式」を最後まで変えなければ、進級が止まり、心が折れて教室を去っていくという悲劇につながります。

 

 

「何年もそろばん教室に通ったにもかかわらず、たいした計算力を手に入れることができなかった」

 

この原因にひそむ「筆算トラップ」についてご説明してきました。

まとめ

 

「そろばんを習っても意味がない」

 

という意見の背後にあるもの。その1つとして考えられるものが「筆算トラップ」でした。

 

 

「珠算式」の計算方法でそろばんの練習を続けたら、必ず計算力は向上します。

 

「生徒が筆算式トラップにかかっていないかどうか」

 

ここに心を配ってくれる教室選びができるかどうかが大切になります。

 

そろばんを習っても後悔しないために、どうか参考になさってください。

 

 

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